ありがとう ホセ・カレーラス

 素晴らしい歌声でした。

 去年、マイクで若い女と英語の歌なんぞを歌った時、もう一生聞くことはあるまい(生で)と思っていたのですが、

歌姫「来日してくれる限り、行きましょうよ」

三石「いや、私はもうチケットを買わない。3万5千の価値はない」

歌姫「じゃ私が、還暦のお誕生日プレゼントを買う」

 と、6月に買ってくれたので行ったのでした。

 会場に入ると、マイクがない!!

 しかも共演者の女もいない!

 プログラムを見て、再びびっくり!!

 奴は本気で歌う気です!

 ところが出て来たホセは、曲目をひとつずつピアニストに指示し、ゆっくりゆっくり、語るように歌い出した。

 非常に狭い音域の曲から選び出し、一曲終わるごとに目頭を押さえたり、鼻を押さえたり、鼻をかんだりした。

 あらら、ホセはお風邪なのでした。

 それにしても自分の声と体調と歌とを知りきっている者の貫録で、聴衆はため息をつくばかり。

 ”目病み女に風邪男”どころではない。

 なんという色気であろうか。

 これがプロフェッショナルというものなのだろう。

 ホセは今年の4月にオペラをやったらしい。

 それで自信を持ったか、居直ったか。

 白血病に続いて再び不死鳥のように復活したホセ・カレーラスなのであった。

 休憩時間には煙草を吸うより先に、来年の予約にカウンターに走る。

「来年のチケットは、私が買わせてもらうからねッ!」

 歌姫と余韻を楽しむ。

 偉いもんだ。

 年齢だとか、風邪だとか、猫が死んだとか言ってないもんなあ。

 ホセ様は希望の星でした。